「医薬品ONSの薬剤給付適正化に関する要望書」について
社会保障審議会・医療保険部会にて議論されている「医薬品経腸栄養剤(ONS)の経口摂取時における給付除外案」に対し、当学会としての要望書を厚生労働省に提出いたしました。
令和7年(2025年)12月29日
厚生労働省
保険局長 間 隆一郎 殿
医療課長 林 修一郎 殿
一般社団法人 日本リハビリテーション栄養学会
理事長 吉村 芳弘
「栄養保持を目的とする医薬品の薬剤給付の適正化」に関する要望書
~リハビリテーション栄養の視点による医学的妥当性と医療経済合理性に基づく再考のお願い~
1. 序文:要望の主旨
時下、ますますご清祥の段、お慶び申し上げます。平素より、本邦の医療行政および国民の健康寿命延伸に対する多大なるご尽力に、深く敬意を表します。
さて、令和7年12月25日の社会保障審議会・医療保険部会において示された、医薬品経腸栄養剤(以下、ONS)の経口摂取症例に対する保険給付除外の方針に関し、当学会はリハビリテーション医療の現場を預かる専門団体として、強い危惧を表明いたします。リハビリテーション栄養において、栄養管理は運動療法の基盤であり、適切な栄養介入なしにはADL(日常生活動作)の改善は望めません。今回の「経口摂取を理由とした一律の給付除外」は、患者の機能回復を阻害し、結果として医療・介護コストの増大を招く「合成の誤謬」を孕んでいます。
2. 医学的根拠:低栄養は「治療すべき疾患」である
現行診療報酬制度との明白な矛盾:本邦の診療報酬制度においては、すでに2024年度(令和6年度)改定において、回復期リハビリテーション病棟入院料等の算定要件として「GLIM基準を用いた栄養状態の評価」が導入されています。すなわち、国はすでに低栄養を「医療として管理・介入すべき病態」として公式に定義し、現場にその評価を義務付けています。 それにもかかわらず、その治療手段であるONSを「食品類似」として保険給付から除外することは、「評価(診断)は医療だが、治療(ONS)は自己負担」という極めて不整合な制度設計であり、論理的矛盾を露呈しています。これは、リハビリテーション栄養の根幹を支える現行の施設基準や管理料の趣旨を根底から覆すものです。
ICD-11における成人低栄養の疾患認定:2025年10月、WHOはICD-11において「成人低栄養(Undernutrition in Adults:5B72)」を正式な疾患として承認しました。これにより、ONSによる栄養補給は単なる食事の代替ではなく、医学的診断に基づく正当な「治療」であることが国際的に定義されています。
GLIM基準による科学的診断:最新の国際診断基準「GLIM基準」により、医師や管理栄養士等の多職種が低栄養を客観的に評価・診断することが可能です。医学的に調整されたONSは、通常の食品では達成困難な代謝改善を目的とした「医薬品」としての機能を果たしています。
3. リハビリテーション栄養特有の論点:不適切移行の防止
「医原性サルコペニア」の懸念: 経口ONSが全額自己負担(100%)となる一方で、経管栄養(チューブ栄養)の給付が維持される場合、経済的理由から安易な胃瘻造設や経管栄養への逆戻りを選択するインセンティブが働きます。これは、口から食べる喜びを奪い、廃用症候群を助長する「医原性」の健康被害であり、リハビリテーションの理念に真っ向から反するものです。
ADL回復への直結: 回復期リハビリテーション患者において、GLIM基準で低栄養と診断された症例は、そうでない症例と比較してFIM運動項目の改善が有意に低いことが示されています。ONSの給付制限は、在宅復帰を妨げ、長期の療養を強いる結果となります。
4. 医療経済的視点:コスト削減効果への疑問
低栄養患者に係る医療費は、非低栄養患者と比較して年間約1.05兆円~1.19兆円超過していると推計されています 。ONSという安価で効果的な投資を削減することは、褥瘡(床ずれ)の発生や骨折、再入院のリスクを高め、削減額を遥かに上回る追加コストを発生させます。
【要望事項:医薬品経腸栄養剤の保険給付継続に関する適正化基準】
当学会は、漫然とした処方の適正化には賛成しつつ、以下の基準に基づく保険給付の継続を強く要望いたします。
- 現行制度に基づいたGLIM基準による給付の継続:すでに診療報酬上の評価指標となっているGLIM基準について、GLIM基準を用いた適正な診断に基づく低栄養患者へのONSの処方根拠(レセプト記載等)として活用し、真に治療が必要な患者へのアクセスを保障すること。
- リハビリテーション実施患者への配慮: 摂食嚥下障害やサルコペニア、フレイルを有し、機能回復訓練を行っている患者に対し、経口摂取維持を目的としたONS処方を給付対象として明文化すること。
- 疾患特異的栄養障害への対応: カヘキシア(悪液質)や疾患に伴う慢性的な炎症により、通常の食事のみでは栄養改善が困難な病態を「治療対象」として維持すること。
結語
2026年度診療報酬改定の基本方針に掲げられた「治し、支える医療」および「栄養管理の推進」の実現には、すでに制度化されているGLIM基準に基づく適正なONS活用が不可欠です。行政自らが定めた評価指標を否定し、医療現場に混乱を招くことのないよう、賢明な制度設計を切にお願い申し上げます。
謹白
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